建物の屋上は、常に紫外線を浴び雨風に耐え続けている状態です。外壁と比べても劣化スピードは早く、定期的な補修を実施していかなければ雨漏りや浸水リスクを避けられません。
「防水工事」は建物の防水性能を保持し資産価値を守り、内部劣化を防ぐためにとても重要な補修工事ですので、大規模修繕の周期に関係なく劣化状況に合わせて補修していくことがとても重要となります。
今回は防水工事の4つの工法やメリット・デメリット、耐用年数、費用相場について解説していきます。
目次
大規模修繕における『防水工事』の必要性
屋上やバルコニー、外階段などは雨や風、雪などに直接的な影響を受ける部分です。
常に雨風にさらされている床面の老朽化が進めば雨漏りが発生し、建物内部に水が侵入することで建物自体が次第に傷みます。
そうしたトラブルを防ぐために防水加工を施すのが「防水工事」なのです。
特に屋上やバルコニーの経年劣化が進行すると居室内への漏水に繋がりやすい箇所となるため、住民の安全を守るためにも定期的な点検・メンテナンスを行うことが大切です。
ゆえに、大規模修繕工事の際に防水工事を行う場合もあれば、単独で補修する場合もあるなど、経年劣化に合わせた防水工事を実施していく必要があります。
屋上の防水工事を行うタイミングはいつ?
一般的に屋上の防水工事は、大規模修繕のタイミングで実施します。
しかしながら、防水層が破損したり、雑草が生えてきたりと、屋上の劣化状態によっては大規模修繕を行う前に防水工事を実施しなければならないケースがあります。
※防水層とは、塗膜防水層やアスファルト防水層、シート防水層など、コンクリート屋根に雨漏り防止のために施される工事のこと。
屋上に雑草が生えている
マンションの屋上に雑草が生えている場合は、防水機能が損なわれているサインです。
「雑草くらい問題ないだろう」と安易に考えてしまいがちですが、雑草の根が防水層の内部を傷めることで漏水・雨漏りを引き起こす可能性があり、大変危険です。
また、コンクリート内に雨水が侵入することで内部鉄筋にサビが生じ、コンクリート躯体の劣化に繋がってしまいます。
さらに雑草を放置していると劣化が進行し時間やコストもかかりやすいため、早めに防水工事を実施しましょう。
防水層が劣化している
屋上の防水層にひび割れや破損、膨れ・浮き、水ハケが悪いなどといった症状がみられたら、防水機能が低下しているサインです。
他にも、防水シートが剥がれていたりバルコニーの水ハケが悪くなっている場合は補修のタイミングといえるでしょう。
建物内部への雨水の侵入で内側から蝕んでいく前に、早めの防水工事をおすすめします。
防水工事の4つの工法とメリット・デメリット|耐用年数や費用についても紹介
防水工事の工法を大きく分けると以下の4つがあります。
- アスファルト防水
- FRP防水
- シート防水
- ウレタン防水
それぞれの特徴やメリット・デメリット、耐用年数、費用相場についてご紹介していきます。
※耐用年数や費用は施工業者によって異なり、あくまで目安となります。
アスファルト防水
アスファルト防水は、アスファルトシート(貼る防水)と液状の溶解アスファルト(塗る防水)を組み合わせて防水層を形成する防水工事の一つです。
マンションやビルで古くから用いられてきた工法で、他の防水工事に比べ耐用年数が長く、密閉性と耐荷重性に優れているのが特徴です。
ただし、工期が比較的に長いことや工法によってはアスファルトが溶けるニオイと煙に注意が必要で、住民や近隣の方々に配慮が必要な防水工事でもあります。
アスファルト防水には『常温工法(冷工法)』と『トーチ工法』の2種類の工法があり、それぞれ工期や費用が異なるため、以下を参考にメリット・デメリットを比較して選定しましょう。
<アスファルト防水の2種類の工法>
常温工法(冷工法)
冷工法とも呼ばれている常温工法は、常温のアスファルト材と雨水を下地に染み込まないように守るルーフィングシートで防水層を形成する工法です。
高度な接着技術が必要ですが、熱の発生がないため、悪臭や煙が発生せず住民や環境に優しいのが特徴です。
トーチ工法
トーチ工法は、ルーフィングシートをトーチバーナー(ガスバーナー)で溶かして水密性の高い防水層を形成する工法です。
トーチバーナーで炙りながら溶かして貼り付けていくため、悪臭や煙が発生しやすく、住民への配慮が必要となります。
・常温工法(冷工法)は煙や悪臭が発生しないため、住民や環境に優しい
・トーチ工法はトーチバーナーがあれば簡単に施工可能
<デメリット>
・トーチ工法は煙や悪臭が発生しやすいため、住民への配慮が必要
・他の防水工事に比べると費用が高い
・屋根の形状によっては施工できない
・工期が平均6~10日程度と長くなりやすい
<アスファルト防水の耐用年数と費用相場>
耐用年数:10年~20年程度
費用相場:1㎡あたりの単価は5,500円~8,000円
FRP防水(繊維強化プラスチック)
FRP防水とは「繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)」の略称で、プラスチックの中にガラス繊維などを含ませることで強度を高めた、軽量かつ耐水性・耐久性・耐熱性に優れた複合材料です。
ガラス繊維のマットを施工箇所に敷き、その上からポリエステル樹脂を塗装する防水工法です。形成された防水層は継ぎ目がないため、近年では屋上菜園の防水層としても注目されています。
しかしながら、他の防水工事の工法と比べると耐用年数が短いという懸念点もあり、価格も高くなりがちです。
またFRP防水は、屋上などの面積が広い部分に採用すると建物の形状についていけずひび割れが起こりやすいため、バルコニーなどの防水工事に適しています。
・軽量でありつつ、耐水性や耐久性、耐熱性に優れている
・乾きが早いため工期が短いため、短期間で防水工事を済ませたい方におすすめ
<デメリット>
・コストが高くなりやすい
・施工時に異臭が発生しやすいため、住民への配慮が必要
・プラスチック素材なので、地震の揺れには弱い
・伸縮性に欠けるため、ひび割れが起こりやすい
・広い面積に施工できない
<FRP防水(繊維強化プラスチック)の耐用年数と費用相場>
耐用年数:10年程度
費用相場:1㎡あたりの単価は4,000円~7,500円
ウレタン防水
ウレタン防水は、ウレタン樹脂を何層も重ねて塗ることで防水層を形成する防水工法です。
形状が複雑な屋根でも活用でき、通気性や耐久性の高さに加え費用も安価であることから、屋上の防水工事の中では最も主流とされている工法です。
また継ぎ目もないため、継ぎ目から侵入しやすい雨水もブロックすることができます。
工法は、床面に直接ウレタン防水材を塗り重ねる『密着工法』と、床面に通気マットを敷いてウレタン防水材を塗り重ねる『通気緩衝工法』の2種類の工法があります。
一般的にはベランダなどの面積が小さい箇所は『密着工法』で、面積の広い屋上の防水工事には『通気緩衝工法』を採用しています。
通気緩衝工法は通気性が高いため、防水層が膨張するのを防ぐことができ、密着工法よりも耐久性に優れた特徴を持っています。
しかしながら、施工中に雨が降った際にはスムーズに排水溝に雨水を流さなければならず、防水層を均一に形成する職人の腕前が必須となります。業者を選ぶ際には、ウレタン防水の実績が豊富な施工業者に依頼することが重要です。
・液状であるため継ぎ目がなく、雨水の侵入を防げる
・複雑な屋根にも対応可能
・他の防水工事に比べ費用が安い
<デメリット>
・ウレタン防水は雨に弱く、施工中は硬化不良となる危険性もある
・塗膜面の均一性が難しく職人によって仕上がりが左右しやすい
・耐用年数が比較的に短い(10年程度)
<ウレタン防水の耐用年数と費用相場>
耐用年数:10年程度
費用相場:1㎡あたりの単価は2,500円~7,000円
シート防水
シート防水はFRP防水やウレタン防水といった塗装防水のように塗るのではなく、防水シート貼って防水層を作ることで雨水の侵入を防ぐ工法です。
費用は他の防水工事と比べると安いものの、耐用年数はそれほど長くはありません。
またシート状の防水材ですので、複雑な形状をしている屋根には施工できないことがあります。
施工に用いられるシート防水は『塩化ビニールシート防水』『ゴムシート防水』の2種類がありますが、現在はより耐久性に優れた塩化ビニールシートを用いた補修が一般的です。
<シート防水の2種類の工法>
塩化ビニールシート防水
塩化ビニールシートは、塩化ビニールの樹脂で形成された防水シートの裏面に接着剤を塗って張り付ける工法です。
厚さは1.5mm~2.5mmほどあるので、ゴムシート防水と比べると防水層が厚く、紫外線や熱、オゾンに対し優れた耐久性を持っています。
ゴムシート防水
ゴムシート防水は、合成ゴムを用いて防水シートの裏面に接着剤を塗り、張り付ける工法です。
塩化ビニールシートに比べ防水層としての厚みが薄いため、損傷を受けやすく、過去には接着剤の劣化によって水が侵入した事例もあります。
・他の防水工事に比べ費用が安い
・防水シートを敷く工法なので工期が短い(施工後すぐの歩行も可能)
・塩化ビニールシート防水は色が選べる
<デメリット>
・平らな屋根、屋上にしか施工できない
・耐用年数は比較的短い(10年~13年程度)
・接着剤でなく「機械固定工法」を用いた場合、ドリルの振動と騒音が発生するため住民への配慮が必要
<シート防水の耐用年数と費用相場>
耐用年数:10年~13年程度
費用相場:1㎡あたりの単価は3,000円~6,000円
大規模修繕工事に関係なく、建物の劣化状況に合わせた防水工事を実施しよう!
今回は大規模修繕の際に合わせて実施することが多い防水工事について、工法ごとに異なる耐用年数や費用相場をご紹介しました。
「アスファルト防水」は防水機能が高いため耐用年数が長いが、その分費用も高いということ、「FRP防水」は軽量かつ耐水性・耐久性・耐熱性に優れた複合材料ですが、広い屋上というよりは面積の狭いバルコニーに向いているということがお分かりいただけたかと思います。
さらに「ウレタン防水」は屋上や屋根の形にとらわれないメリットがあるものの、耐用年数は比較的に短いということ、「シート防水」は費用が安く工期が短い分、平らな屋根や屋上にしか施工できず耐用年数も短いという特徴がそれぞれありましたよね。
断熱材や躯体の鉄筋などに雨水が侵入しなければ建物の耐用年数は延び、長持ちしていくものなので、ひび割れや破損、シートの剥がれなどの劣化を発見したら大規模修繕の有無に関係なく早めに専門業者へ相談するようにしましょう。