大規模修繕工事では外壁塗装工事や防水工事を実施しますが、その作業工程で建物の細部の補強や補修を行う作業を下地補修工事といいます。
下地補修工事は建物の仕上がりを大きく左右し、欠落などの落下物を防ぎ住民や周囲の方々の安全を守るためにもとても大切な工事になります。
そこで今回は、大規模修繕工事で実施される下地補修工事の工法や平均単価までご紹介します。
目次
大規模修繕工事の仕上がりを大きく左右する下地補修工事とは?
下地補修工事とは、外壁塗装工事や防水工事を行う際にコンクリートのひび割れ(クラック)や剥がれ、モルタルの傷などを補修する工事です。
コンクリートの亀裂やモルタルが浮いた状態で放置していると、その上からいくら丁寧に塗装してもすぐにひび割れが発生したり、塗膜が剥がれてきたりと大変危険な状態となってしまうものですが、下地を丁寧に整えてから塗装することで建物の仕上がりが美しく保たれ、塗膜も長持ちするのです。
下地補修工事は地味な作業であるものの、大規模修繕工事のクオリティ、そして安全性を高める重要な工事なのです。
大規模修繕工事で下地補修工事が必要な4つの劣化症状
実際に大規模修繕工事を行う工程で、どのような経年劣化が見られると下地補修工事が必要になるのか、代表的な4つの劣化症状を見ていきましょう。
下地補修工事が必要な劣化症状①モルタル(塗膜)の浮き
マンションの大規模修繕工事では、躯体コンクリートの凹凸調整のために下地調整材のモルタルを塗ります。
ひび割れから雨水が侵入したり地震などで強い力を受けたりと経年劣化が見られれば、このモルタルが浮いてくる可能性があります。
モルタルの浮きには早めの補修が必須ですが見た目にはわからないことが多いため、大規模修繕工事の際には打診棒やテストハンマーなどを用いてしっかりと診断してもらいましょう。
モルタルの浮きを放置しているとモルタルごと剥がれ、欠落してしまう危険性があるため早めの下地補修工事が大切です。
下地補修工事が必要な劣化症状②ひび割れ(クラック)
ひび割れ(クラック)は太陽の日射しや紫外線、雨風、地震の揺れといったさまざまな影響から発生します。
そのため大規模修繕工事の際には必ずと言っていいほど、ひび割れ補修工事を行っています。
建物のひび割れを補修せず放置していると亀裂の隙間から雨水が侵入し建物内部に大きなダメージを与え、どんどん建物を蝕んでいくため、下地補修工事は欠かせません。
また、建物の寿命を延ばすためにも、大規模修繕工事の実施に関係なくこまめに補修していくことが大切になります。
下地補修工事が必要な劣化症状③コンクリートの欠損
コンクリートの欠損原因にはひび割れ、そして鉄筋が内側からコンクリートを押し出だす爆裂、地震による影響などさまざまなケースがあります。
下地補修工事では、弱くなったコンクリート部分を取り除きモルタルなどで成形する補修工事を行います。
下地補修工事が必要な劣化症状④鉄筋コンクリートの爆裂
コンクリートは、乾燥によって中の水分が蒸発することで体積が収縮し表面にひび割れを発生させます。
ひび割れから雨水が侵入するとコンクリート内部の鉄筋にサビが発生し、そのサビが膨張することで壁が浮き出てきたり、鉄筋自体がそのまま飛び出してくることもあります。この現象を「爆裂」と呼び、発見した際にはすぐに補修しなければなりません。
ちなみに、鉄筋がサビてしまうと体積が2倍以上に膨れ上がります。
コンクリートの鉄筋の爆裂を放置すると建物の強度が下がるだけでなく、コンクリートが剥がれ落ちる危険性があるので、サビ止め塗料(防錆プライマー)などを使いながら慎重に下地補修工事を実施しましょう。
下地補修工事の代表的な5つの工法と平均単価
下地補修工事では、それぞれの劣化症状に合わせた工法で補修を行っていきます。
ここからは下地補修工事の代表的な工法とその平均単価をご紹介します。
フィラー刷り込み工法|0.3mm未満の微細なひび割れの補修
下地補修工事で行うフィラー刷り込み工法は、「ヘアークラック」と呼ばれる0.3mm未満の表層のひび割れに対して用いられる補修工事です。
ひび割れ部分にポリマーセメントモルタルなどのフィラー材(充填材)を刷り込むことでひび割れを補修していきます。
フィラー刷り込み工法の平均単価:200円~400円/m
エポキシ樹脂低圧注入工法|0.3mm以上のひび割れの補修
エポキシ樹脂低圧注入工法は、フィラー刷り込み工法では対応できない0.3mm以上のひび割れの補修に用いられる補修工事です。
ひび割れ内部に補修材のエポキシ樹脂を注入して埋めるという工法です。
エポキシ樹脂低圧注入工法の平均単価:3,000円~3,500円/m
Uカット後シーリング処理|1.0mm以上の大きなひび割れの補修
Uカット後シーリング処理は、「構造クラック」と呼ばれる1.0mm以上の深層に達するひび割れに対して用いられる下地補修工事です。
ひび割れ部分をU字型に掘削して、そこにシーリング材を充填していきます。
動きに対応しやすいシーリング材で補修することで、ひび割れが再発したとしても内部までひび割れが達することを防いでくれます。
Uカット後シーリング処理のの平均単価:1,200円~2,500円/m
アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法|外壁モルタル・タイルの浮きの補修
アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法は、外壁モルタルやタイルの浮きに対して用いられる下地補修工事です。
浮きが見られる部分にドリルで穴を開け、隙間を埋めるようにエポキシ樹脂を注入していきます。
そこにステンレスピンを挿し込み建物に固定することでコンクリートの落下を防ぎます。
アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法の平均単価:部分補修で200円~500円/穴、全面補修で5,000円~8,000円/㎡
モルタル充填工法|鉄筋コンクリートの爆裂や欠損の補修
モルタル充填工法は、鉄筋コンクリートの爆裂やひび割れによる欠損部分に採用される下地補修工事です。
ひび割れの欠損部分が浅い場合には、セメントにポリマーを調合し強度を高めた「ポリマーセメントモルタル」を用いますが、鉄筋コンクリートが突き出しているような大きい爆裂には、軽量で天井面や垂直面への厚塗りができる「エポキシ樹脂モルタル」が適しています。
モルタル充填工法の平均単価:1,200円~3,000円/ヶ所
大規模修繕工事に関係なく、劣化症状に合わせて適切な下地補修工事を実施しよう!
マンションの外壁部分にはひび割れや欠損、浮き、爆裂などの経年劣化がつきもので、大規模修繕工事の実施には必ずと言っていいほど下地補修工事を行います。
そして建物の寿命をより長く、耐久性、安全性に優れた状態で保つためには『下地補修工事』が不可欠なのです。
時に大規模修繕工事の実施の有無に関係なく劣化症状が進行し、ひび割れや欠損などが見られる場合がありますが、その際にはできるだけ早く補修することが大切になります。